カードゲームを作る②~ルールの調整とベースの設定~

カードタイプの設定

 現実逃避の結果連日の投稿になっています。第二回目の今回はカードゲームデザインの細かいところに話を進めます。前回、カードゲームを構成する要素として「手札」「山札」「ライフ」「マナ」を挙げましたが、カードゲームにおける「カード」にもいくつかの種類があります。戦闘を行う「生物(クリーチャー)」、使い切りの効果を発動する「呪文(スペル,ソーサリー)」場に残り永続的に効果を発動する「永続魔法(エンチャント,アミュレット)」あらかじめセットしておいて、条件が満たされると効果を発動する「罠」などが代表的でしょうか。本作は二人プレイに限定している点、そして一ターン一プレイしかできない点から、プレイできるカードにはできることの幅が求められます。この点から、相手ターンに動けるカードも一定数必要であると考えられます。また、前回の記事で紹介した「皇子」のように、拡張性に富んだカードも必要です。具体的には、毎ターン選択肢が複数存在するカードです。以上より、本作では戦闘を行う「兵士」、使い切りのアクションカードである「行動」、場に存在することで効果を発動する「建物」、そして相手ターンでの行動を可能とするために、自分のターンに伏せておくことで相手ターン中に公開し効果を発動できる「レゾナンス」、自ターンでの行動の幅を増やすこために、毎ターン体力を操作することで能力を使用できる兵士である「忠誠者」の5つのカードタイプを作成しました。

 話が少し変わります。本作は前回の記事で紹介したように山札の枚数が15枚と他のTCGと比較してかなり少ない部類です。多くのTCGでは「ライフが0点以下になること」以外に山札の残り枚数がなくなり、ターン開始時のドローができない状態である「ライブラリーアウト」を敗北条件としています。本作でもそのルールを取り入れるとゲームの終了が著しく早くなってしまいます。そこで、カードを「再帰」と「必終」の二種類に分けることで「ライブラリーアウト」を取り入れつつ、ゲームが極端に短くならないようにしました。後述しますが、再帰カードは必終カードに比べ、若干カードパワーが落ちます。その代わりに、死亡・使い終わった後に通常のカードが置かれる墓場ではなく、再帰領域に置かれます。再帰領域のカードはターン開始時に山札の残りがない際に山札に補充されます。つまり、デッキを再帰カードで固めれば永続的にライブラリーアウトが発生しません。(これもこれで問題となるのですが、解決策はまた後程記します。)

 これで、「忠誠者」と「再帰カード」という特徴的な部分が形成されていきました。次の章では実際のカード設計について扱います。

ベースとなるカードの設定

 実際のカードをデザインし始める際に僕が行うのは、いわゆるフレンチバニラの作成です。フレンチバニラとは、いわゆる「生物」カードのうち、キーワード能力のみを持つカードのことです。詳しく説明できていいませんでしたが、本作はカード同士の戦闘において、攻撃対象を詳細に指定できるルールとしています。また、多くのTCGでそうであるように、いわゆる「召喚酔い」と呼ばれる、「生物」は場に出たターン行動できないルールを採用しています。多くのTCGのカードというのは、ベースとなるルールを破壊できることで独自性を持たせています。例えば、mtgにおける「速攻」やシャドバにおける「疾走」は召喚酔いのルールを破壊して、場に出たターン行動することを許可するものです。本作においてもベースとなるルールを破壊するキーワードを持ったカードからデザインを始めます。フレンチバニラの作成を始めに行うのは、シンプルなカードの作成がなければ、複雑でより魅力的なカードを作れないためです。

 以下より、実際のカードを紹介していきます。はじめに三すくみとなる基本の兵士カードを作成します。具体的には以下に挙げる「追撃兵」「守衛兵」「潜伏兵」の三種です。

 それぞれのキーワードを解説します。【臨戦】は場に出たターンに相手プレイヤー以外を対象に攻撃できるという能力です。【追い打ち】は攻撃後、(攻撃した兵士の生死にかかわらず、攻撃相手が皇子でない場合のみに)発動する効果です。追撃兵の場合、攻撃相手にさらに3ダメージを与えます。つまり、追撃兵は場に出たターンに兵士や建物に攻撃可能で、6ダメージを与えられます。【守衛】は優先的に攻撃対象になる効果です。具体的には、場に【守衛】がいるとき、対戦相手は場の【守衛】を持たないカードを攻撃の対象にできません。(能力の対象にはできます。)最後に、【隠遁】は、行動するまで相手の能力や攻撃の対象にならないという能力です。3枚をセットで考えてると、追撃兵は守衛兵に攻撃すると体力が1残りながら守衛兵を倒せます。これを「有利交換」といいます。守衛兵は潜伏兵の攻撃を受けても、体力2を残しながら、潜伏兵を倒せます。これも有利交換になっています。潜伏兵は追撃兵に攻撃すると「【攻撃時】2ダメージ。」を持つため、有利交換ができます。これら3枚はじゃんけんのように三すくみで有利交換がとれるようになっています。また、だいたい「3」が基準になる数値設定がされています。

 再帰カードは上に挙げたようにシンプルなカードを基本としています。再帰カードは試合が長引くことを想定すれば、どのデッキにも入れられるようなタイプでないとならないからです。対して、必終カードはデッキの軸になるようなカードになるようデザインしました。再帰カードの軸が「汎用性」なら必終カードの軸は「魅力」にあります。

アーキタイプと皇子

 TCGには「アーキタイプ」というものがあります。デッキのコンセプト、軸のことです。代表的なものでいえば、相手の体力を削ることを最優先とし、速攻をテーマとする「ビートダウン」、盤面の除去と攻撃手段をバランスよく採用した中速の「ミッドレンジ」、相手のカードの打ち消しや除去で序盤をしのぎ、ためたリソースを使ってゲームを終了させる「コントロール」、カード数枚の相乗効果を生かしてゲームを終了させる「コンボ」が代表的でしょうか。「皇子カード」はこれら4つのアーキタイプをそれぞれ支援するものになっています。以下が実際の皇子カードです。

 上から順に紹介します。「イデアル」は「コンボ」デッキに適応しています。手札交換とドロー効果を備えながら、ライブラリーアウト戦術も取ることができます。「サージュ」は「ミッドレンジ」デッキを使う際に選ばれることを想定しています。統率力を-3することで相手のカードを行動不能にすることでテンポをとりながらドローでカードアドバンテージを獲得できます。「コル」は「アグロ」に向いた皇子です。相手の体力を削ることに特化した能力を多く持ちます。対して「エデル」は「コントロール」デッキに向いています。この中で唯一統率力を1ターンに+2できる点が特徴で、統率力をリソースとするカードを使うのに向いています。と、ここまで紹介に終始してしまいましたが、皇子の能力=体力操作能力のうち、増加させる能力は数字でいうなら「1」が基準になっています。体力操作能力は毎ターン無条件に使えるものなので、当然、カード一枚よりもできることが限られる必要があります。mtgを例にとるなら、再帰カードは3マナ相当程度の効果を持っています。対して体力操作能力の増加は1マナ以下程度の効果を持っています。一方で、体力操作能力のうち、減少させるものはカード1枚程度かそれ以上の効果を持たせています。

 カード下部の数字は緑が「統率力」、薄い青が「初期体力」、濃い青が「体力の上限」を示しています。比較的体力操作能力が汎用的なサージュは体力が低め、体力操作能力が限定的で効果も低めなコルは体力が高めに設定されています。そもそも、初期体力の平均を15~16に置いたのは、一ターン一プレイで行動に制約が出やすく、一進一退の攻防となる展開になりやすいため、体力が削れるスピードが他のゲームより遅いと考えられるからです。このあたりの数値調整はテストうプレイを重ねないことにはできないのですが、検討をつけるために自分のゲームを分析することが必要です。具体的には、ある程度のカードをデザインした後にそこから予想されるデッキを自分でいくつか組んでみて、試合展開を予想することです。

 では今日はこのあたりで。ちなみにカード名は友人と相談しながら、なんとなくの背景世界を作りつつ決めました。それから、カードの絵は自分が描けないこと、それから作業スピードが上がることからフリーのアイコンを利用しています。

貫通錯誤
カードゲームとボードゲーム(ゴールデンエッグラー,mtg,シャドバ,Blade Rondo,自作など)を嗜んでいます。カードゲーム、音楽、動画についてなどと、根強いファンを誇りたいショートエッセーの現代錯誤という連載を書いていきます。
noteでも(ほぼ同じ内容を)公開しています。⇒https://note.com/sakugo_suzuko
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