カードゲームを作る③~基本カードのデザイン~

 

再帰カードのデザイン①~兵士~

 第三回となる今回は、基本カードともいえる再帰カードをデザインするにあたって注意した点を紹介します。前回紹介した3枚は三すくみとなるデザインがなされていました。今回、以下に紹介する3枚の兵士カードはどれもが、兵士カードを比較的積極的に使う、「ビートダウン」「ミッドレンジ」「コントロール」の三種のアーキタイプを支援しています。では、実際のカードを見てみましょう。

 キーワード能力を紹介しながらカード紹介をします。奇襲兵はその名の通り突然の攻撃を得意としたカードで、【急襲】を持っているため場に出たターンに攻撃できます。さらに、この兵士を【送還】、つまり(この場合)再帰領域に置くことで、場の兵士全てに【急襲】を付与できます。このように奇襲兵はビートダウン戦略に非常に向いたカードとなっています。なお、【送還】は、死亡扱いしないがそのカードを死亡後に置かれる場所に置く行為を表します。

 暗殺兵はミッドレンジデッキへの採用を想定したカードで、【絶死】を持つため、このカードがダメージを与えることができれば、ダメージを与えた兵士や建物を必ず破壊できます。戦闘に大きな強みを持つ点がポイントです。一方で相手の行動カード(いわゆる呪文、スペルのことです)による除去は戦闘を介さないため、弱点となりえるわけですが、その弱点を死亡時の効果でカバーできます。場に出た時点で相手の兵士を1体破壊することが保障されているカードアドバンテージ確保に優れたカードです。

カードアドバンテージとは
暗殺兵の紹介で登場した「カードアドバンテージ」の概念は、カードゲームを考えるうえで外せません。カードアドバンテージとは、手札にあるカードや場にあるカード全ての合計を数値化してとらえ、その増減によって得られる損得を考える概念です。たとえば、あなたが「カードを2枚引く」カードを唱えたら、あなたの手札は1枚増えます。つまり、あなたは1枚のカードアドバンテージを得たことになります。あなたが場に5枚の兵士を並べているときに、それをすべて破壊されてしまったなら、あなたは5-1=4と4枚のカードアドバンテージを失ったことを意味します。カードゲームにおけるアドバンテージの考え方には「テンポ」、「ボード」「ハンド」「タイム」など様々あります。おいおい紹介していきますが、今回はひとまず、基礎となる「カードアドバンテージ」の概念を紹介しました。

 本題に戻りましょう。最後に伝令兵は場に出た時に効果を発揮する【展開時】能力によってカードを2枚引くことができます。たくさんのアドバンテージを生かしたいコントロールタイプのデッキに向いています。このカードに至っては1枚のカードが1枚の兵士と2枚の手札になるため、2枚のカードアドを得ていることになります。(が、出てくる兵士のサイズは1/2と貧弱ではありますね。兵士のサイズ比較には攻撃力と体力を足した値を2で割った平均値を良く用います。前回登場した追撃兵なら2.5、奇襲兵なら2、伝令兵に至っては1.5になります。前回紹介した「基準となる数字」という言葉はこの概念を表したものです。前回、この数字の平均がおおよそ「3」になるように調整しているといいましたが、それと比較すると伝令兵の数値の低さが目立つでしょう。このようなスタッツの調整は実際のゲームを参考にしてみてもいいかもしれません。)

再帰カードのデザイン②~行動~

 では、ここからは再帰カードのうち、使い切りのアクションカードである「行動カード」を扱います。早速行きましょう。以下が再帰の行動カードです。

 カードゲームの特徴は「カードのルールが原則を破壊する」点にあります。前回の記事でも少しふれましたね。ここで紹介する再帰である行動カードは、すべて本作における「一ターン一プレイ」のルールを破壊します。具体的には、【支援】を持つカードは、そのあとに記載されているカードタイプ(上の場合は紫の丸=行動カード)の枚数を参照して、記載数値以上のカードがすでにあるなら、一プレイには数えない形で唱えられます。いわゆる「無料プレイ」というやつです。このように、原作の根幹となるルールであっても、躊躇せず破壊していきましょう。ゲームの特色が奪われるのではないかと思われるかもしれませんが、「原則としてそのルールが存在している」ことが重要です。この場合、【支援】を持つカード以外に関しては一ターン一プレイの原則が存在しています。つまり、これらのカードはその原則を特例的に破ることができるわけです。普通のTCGであれば一ターン複数プレイ出来て当然ですが、このゲームならばそれが特別となります。特別な体験を演出することはゲームの楽しさ、魅力を生み出すうえで非常に重要であると言えるでしょう。

 話をカードに戻しましょう。再帰の行動カードは全部で四種類存在します。これらもそれぞれがアーキタイプを支援するものとなっています。剣の書は相手に直接4点を与えることができるカードです。いわゆる「バーン」戦略と呼ばれる、直接打点を中心としたデッキを組むことができます。知の書はコントロールデッキに向いています。【支援】によって唱えることができれば、コストなしでカードを1枚引きながら、ライフを得つつ、能力がないカードを1枚得ながら、【予知】と呼ばれる山札操作、具体的には山札の一番上を見てそれを山札の一番上か一番下においてよい効果を1回使えます。能力がないカードは「カードを捨てる」ことがコストになる際に有用です。さらにほかのカードを見ていきましょう。

 光の書は兵士か建物を破壊できます。カードゲームにおいて「一対一交換」という損をしないカード交換ができます。むしろ、相手の脅威となるカードを簡単に除去できるのは強みであると言えます。これはミッドレンジデッキに向いたカードですね。最後の闇の書はライブラリーアウト戦術に向いています。皇子の「イデアル」にマッチした戦術です。短期的に考えれば、山札を捨てるという行為は何も生みだしません。しかし、その行為を繰り返していけば、相手の山札は枯れ、やがて敗北させることができます。「コンボ」とは少し違いますが、独特な戦略であるといえるでしょう。

 これらカードデザインにおいて、今回も難しいのは数値の設定でしょう。行動カードの場合は、そのカードが生み出すカードアドバンテージと、アドバンテージを生み出せるシチュエーションがゲーム中に現れる確率とを総合的に判断するしかありません。剣の書でいえば、必終カードの基準が数字でいえば「4」に置いていることから、それすらも取れることを目安としました。このように、ゲーム中における具体的なシチュエーションも鑑みた数値設定が必要でしょう。

 区切りが良いのでこのあたりにします。次回は建物カードとレゾナンスカードの紹介をしていきます。ではまた。

貫通錯誤
カードゲームとボードゲーム(ゴールデンエッグラー,mtg,シャドバ,Blade Rondo,自作など)を嗜んでいます。カードゲーム、音楽、動画についてなどと、根強いファンを誇りたいショートエッセーの現代錯誤という連載を書いていきます。
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