はじめに
突然ですが、アセクシャルという言葉はご存知でしょうか。答え合わせは後程するとして、私が先日拝見した映像作品を紹介させてください。
17.3歳―これは女子の性交渉の初体験の世界平均です(日本の平均は18.6歳)。「17.3 about a sex」は、ある出来事をきっかけに高校2年生、つまり17歳の女子3人が「性」について学んでいくドラマです。今作は全9話で、まだ全話見切れていないのですが、「鉄は熱いうちに打て」ということで、アセクシャルを題材とした第2話「恋したら楽しいとか、普通はセックスするとかホント地獄」に関する内容を語っていきたいと思います。
※ネタバレを含みます
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この回の主人公である原紬は作中で性的少数者、さらに細かく言うと「アセクシャル」を自認します。
性的少数者に関する基本知識
調査によると、全国20代から60代のうち10.0%が性的少数者に該当します。これは学校の1クラスに3-4人存在する計算になります。また、日本での「LGBT」という言葉の認識率は91.0%に上ります。それに対してLGBTに関する内容の理解率は57.1%に留まっています。加えて、近年ではLGBTに代わって「LGBTQ+」という表現がなされることが増えてきています。
なぜLGBTだけではなくLGBTQ+という表現もなされるようになってきたのでしょうか。そもそも、LGBTとはLesbian、Gay、Bisexual、Transgenderそれぞれの頭文字をとった、性的少数者の総称として用いられる言葉です。それぞれの意味は以下の通り。
Lesbian;レズビアン | 女性の同性愛者(心の性が女性で恋愛対象も女性) |
Gay;ゲイ | 男性の同性愛者(心の性が男性で恋愛対象も男性) |
Bisexual;バイセクシャル | 両性愛者(恋愛対象が女性にも男性にも向いている) |
Transgender;トランスジェンダー | 「身体の性」は男性でも「心の性」は女性というように、「身体の性」と「心の性」が一致しないため「身体の性」に違和感を持つ人 |
上の表からわかる通り、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルは性的指向、すなわちどんな人を好きになるかを表す言葉であるのに対し、トランスジェンダーは性自認すなわち自分の性をどのように認識しているのかを表す言葉です。また、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー以外の性的少数者も存在します。
そして、上で挙げた4つのカテゴリー以外の性的少数者の存在も反映した呼称のうちのひとつが「LGBTQ+」です。Qは「クエチョニング(Questioning)」ないし「クィア(Queer)」という言葉の頭文字で、+は性に多様性があることを示しています。
ちなみに…
クエチョニングは性的指向や性自認が揺れ動いている、迷っている、定まっていない人を指します。
クィアは「風変わりな・奇妙な」という意味の英単語で、元々はゲイを罵るのにつかわれていました。しかし20世紀終盤になると、性的少数者は開き直りを以って、自らを「クィア」と名乗り始めました。これ以降、この単語は性的少数者の総称として使われるようになりました。
アセクシャルとは
原紬の自認する「アセクシャル」も性的指向の一種で「他者に性的感情を抱かない」人を指します。人口のうち0.9%がこれにあたります。
作中で性に関する知識を生徒に与える役割を担う生物教師は、アセクシャルについてこう話します。
アセクシャルっていうのは他人に性的魅力を感じない人のことね。キスしたいとか、セックスしたいとか、そういうことも思わない?あとは、ロマンティックな空気とかそういうのを感じ取れない人もいる。そういうことに嫌悪感を感じる人もいる。
まあ、アセクシャルといっても本っ当にいろんなタイプの人がいるから、一概には言えないんだけど。何にどのくらい違和感を感じるかは人それぞれだから。
アセクシャルは宗教等の理由から意識的に恋愛や性交を回避するのではなく、そもそも恋愛をしません、というよりできません。だからといって、アセクシャルは必ずしも性交を行ったことが無い訳でも、パートナーを持たない訳でもありません。また、恋愛ができないからといって、愛情のない冷たい人間というわけではありません。
紬の場合は恋人がほしいと思わない、セックスやキスをしたいと思わない、キスされて気持ち悪くなったことからアセクシャルを自認します。また、本人は気が付いていませんが、映画館”デート”に誘われていること、すなわちロマンティックな空気に気づけず行動している描写も見受けられます。
アセクシャルという概念自体、この社会では「恋愛をする」ことが普通とされているので理解されにくいです。性的少数者の受容に関する標語として「愛のカタチは人それぞれ」、「多様な愛のカタチを認めよう」などといったニュアンスのものが多くありますが、そもそも愛のカタチ以前に、この文脈での「愛」が存在しない人間がだいたい100人に1人くらい存在するのです。
そもそも、個人の体感として、アセクシャルは理解される・されない以前に知られていない存在だなと。身近な人間に聞いただけなのでnは信じられないくらい小さいんですけど。
生物教師が「本っ当にいろんなタイプの人がいるから、一概には言えない」と言っているように、アセクシャルを含め、性的少数者のカテゴリーは多々存在しますが、それらのすべてに性的指向に明確な定義づけをすることは困難です。
この作品の”like!”ポイント
ターゲットが明確であること
この作品のターゲットは高校生!さらに細かく言うとJK!
- 配信プラットフォームがAbemaTVであること。
- Instagram風の演出がなされていること。
- Seventeen専属モデルさん等出演者が若者向けであること。
この3点からだけでも、この作品はJK向けであることが分かるでしょう。この他にも「Qoo10(韓国系の商品が充実した通販サイト)」や「韓国ブラ」など、現代の女子高生の韓流ブームを明確に反映しています。
※AbemaTVは若者向け恋愛リアリティーショーが充実している動画プラットフォームとして知られてます。
この作品ではセックス等々の性に関する言葉が濁されずに何度も出で来るので、地上波で流すのは難しいはずです。地上波で流しにくい作品を制作できるのが独自性の強い動画配信プラットフォームの強みであると実感させられました。
ちなみに、筆者は流行遅れマンなので恋リアを見たことすら無いし、韓国ブラという単語を聞いたのはこの作品で初めて。
ターゲットを絞った作品作りが功を奏したのか、この作品は当時のAbemaTVオリジナルドラマ史上最速・最高コメント数を記録しました。
調査によると、「LGBTに対する自分の意識が変わった・理解が深まった」理由のうち、「映画やドラマ、アニメなどのコンテンツの影響で」が2位にランクインしています。
それゆえ、この作品は若年層への性教育、ひいては性的少数者への理解の向上に貢献したのではないでしょうか。
序盤でアセクシャルを扱ったこと
この作品は「性」について包括的に扱っているので、性的指向だけを描いているわけではありません。もっとも、パンセクシュアル(すべての人を恋愛対象とする性)の登場人物やアウティング(本人の許可無しに公にしていない性的指向や性自認の秘密を暴露する行動)の危険性を描くシーンも存在します。
しかし、この作品の中心となっているのはあくまでも「セックス」すなわち、性交渉です。セックスから派生して、性病やコンドームをして行為をすることの重要性、妊娠、月経、勃起不全、さらにはセルフプレジャー(自慰行為を意味する語)など多岐にわたる内容を扱っています。
その中でも、アセクシャルを題材としたエピソードを2話に持ってきたことは、セックスを描く青春物語として、恋愛をしない・できない人を置いていかない構成と言えます。またアセクシャルを知らない視聴者へのアプローチを早めに行うことは、セックスひいては性を扱う中で非常に意義深いのではないのでしょうか。
エンドロールに解説があること
この作品のエンドロール、途轍もなくよくできているんですよ…
というのも、次の話への誘導と今回の話の内容の復習が両立されているうえ、そもそも画面がきれい。Instagramのポスト風、ストーリー風、Twitterのツイート風の画面が流れるように表示されたのちに、若干お勉強っぽいコンテンツが表示されるという構成になっているのですが、お勉強っぽいコンテンツの画面の押しつけがましさが皆無。性病を扱った第3話のエンドロールの文言を引用します。
例えばこんな感染症が…
クラミジア 感染者 No.1!
梅毒 近年急増化! 感染者 5000人/年
尖圭コンジローマ HIVワクチンで予防できる! 小学6年生~高校1年生は無料
映像中で赤字で強調されていた部分を太字にしてみました。文言だけだと保健の授業感が出てしまっていますね。
しかし、端的に重要事項がまとまっていますし、ポップな色づかいも相まってか、映像中ではそんなに押し付け感はないです(見ればわかる)。
性以外のマイノリティを描いたこと
この作品は、セクシャルではない部分の「マイノリティ」も自然に設定に組み込んでいます。例えば紬は父子家庭で育っています。
性的少数者は存在している
ド当たり前な見出しだな。とは言いつつも、性的少数者が身近に存在している実感はありますか?
上で述べたように、性的少数者に分類される人は約10%いるとされています。調査によると、周囲にLGBTがいないと回答した人が83.9%にのぼります。ここから性的少数者は自らの性的指向や性自認を秘匿していることが窺えます。
作中で紬はアセクシャルであることをかなりサラッとカミングアウトします。しかし、現実の日本では、性的少数者のうちカミングアウトをしていない人は78.8%を占めます。当然ながらカミングアウトする・しないの判断は各々に委ねられていますし、実際カミングアウトは必要ないと考える人は性的少数者の40.1%を占めます。その一方で、生活や仕事に支障がなければカミングアウトしたいと考える人も25.7%存在しています。
本稿ではカミングアウトすべきか議論するものではありませんし、筆者はその議論は不毛だと考えています。また、強制することは人権侵害につながりかねません。ただ、性的”少数者”、セクシャル”マイノリティ”は、実際マイノリティではあるものの、体感より多く存在しているということだけは強調させてください。
おわりに
本稿でたびたびデータを引用した調査によると性的少数者のうち、以下のように考える人は
LGBT・性的少数者に対して誤解や偏見が多いと思う:52.8%
LGBT・性的少数者に対して理解が促進されるべきだと思う:53.4%
このような割合で存在します。半数以上が現状の打破が必要と考えているということですね。社会問題の一番初歩的な解決手段って啓蒙活動だと思うんです。要は知ってもらうこと。
そして、私はこの作品によって、何かの周知に対する映像作品の可能性は無限大であることを感じさせられました。
この記事から性的少数者は意外と多く存在していること、アセクシャルの他にも様々な性的少数者の分類があること、そもそも性的指向が全く同じ人はだれ一人として存在しないことを知っていただけたら幸いです。
あ~あ、締まってないし、ドラマと違って、お勉強感の強い記事になっちゃったなぁ。精進します。
最後に生物教師の言葉を引用して無理矢理締めます。
変?変って何?人と違うのが変?変って誰が決めるの?