高校論文 文章の作法 第五回 テーマ選定を制する

 久々の更新となります。「高校論文文章の作法」の更新を本日より再開させます。

 今までの四回、文章を書く上で重要になる日本語のあれこれについて考えてきました。今回からは論文の執筆に焦点を当てていきます。

 論文の執筆において、テーマというのはあまりに漠然としすぎています。学校で課されるようなレポート類は予めテーマが決まっているものがほとんどですから、テーマを決めるということ自体に難しさがあって当然です。今回はこの「テーマの選定」に焦点をあてます。

 論文のテーマ決めは以下のようなステップを踏むとスムーズでしょう。

①自分をもてなす⇒②見つけた素材の要素を洗い出す⇒③「解釈違い」を探す⇒④自分の解釈に通ずる道を探す

 では一つ一つ詳しく見ていきましょう。

自分をもてなす

 自分をもてなすことを考えてみてください。自分が人にされて一番うれしいことは何でしょう。あるいは、人からされたら身を乗り出してしまうようなことは何でしょう。ここでぱっと浮かんだことが、あなたが興味のあることです。論文執筆は長い道のりです。自分の興味のある分野でなければ長続きしません。筆も乗りません。

 まずは探してみましょう。あなたが人に「語れる」分野であることが重要です。細かいことはこの後考えればよいのです。「何かについて十分語れ」といわれたとき、あなたは何を選びますか?

 何かしらの作品、史実、社会に存在する課題。論文のテーマといわれるとこうしたものを思い浮かべがちですが、そうでなくともかまいません。 一つだけあえて言うとするなら、この先テーマを決めるまでに「すべきこと」の理解が、あなたのテーマ選定への大きな助けとなります。ただ、とにかく自分の興味対象を明確にさせることが重要です。それ以上は次のステップで考えましょう。

見つけた素材の要素を洗い出す

 興味のあることは見つかりましたか。論文を書くには「興味のあること」から「議論」を産み出さなくてはなりません。それを見つけるためにまず「要素」を抽出していきましょう。

 貫通錯誤の興味分野である「カードゲーム」を例に挙げます。カードゲームといっても「トランプ」から「トレーディングカードゲーム」まであります。また、ゲーム進行の際に当然「コミュニケーション」が必要になりますね。あるいは、トレーディングカードゲームで問題となっている「販売元の権力の強さと小売店の弱さ」や、「希少価値の高いカードの価値」に関する問題もあります。あるいは文化として、カードゲームと切っても離せない関係にある「タロットカード」とのつながりや、「クトゥルフ神話」との結びつきなんかもあります。

 このような塩梅に話を広げていきましょう。キャパの広げ方講座で登場したマインドマップもうまく使えるはずです。一つの要素を複数の要素に広げ、その複数の要素をさらに広げ……これを繰り返してみましょう。

「解釈違い」を探す

 ここまで来たらあと少しです。次は「解釈違い」を探しましょう。例として「オンラインコミュニケーションの子供への影響」を取り上げます。

 オンラインコミュニケーションの子供への影響についてあなたはどのような考えを持ちますか?

 例えば、「チャットが主なコミュニケーション手段となるため齟齬が生じやすく、子供の成長に悪影響を与える」という考え方があるでしょう。あるいは「直接的な対話に心を開いてくれない子供に対してでも、チャットを通じてならコミュニケーションが取れるため有用である」とする考え方もあるでしょう。これが「解釈の違い」です。

 このように二つの意見に対立しているものでなくともかまいません。むしろ多くの意見が存在する問題のほうが多い事でしょう。

 あるいは、二つの意見が学説とされている問題に対し、全く新しい斬新な意見を提案してもよいでしょう。

 ここでまず重要なのは「様々な意見を知る」ために、たくさんの文献にあたることです。本、新聞、論文などを読むことで「自分の知識を増強」しながら様々な意見を知ることができます。様々な意見を知った結果自分なりの意見が出ることもありますから、辛抱強く地道に文献にあたりましょう。

 論文執筆の際には自分の意見をサポートするものが必要です。詳しくは今後扱いますが、そのために他者の本や論文の内容を引用する必要が生まれます。ここで、自分の意見に有利なものだけを引用しているようでは説得力が生まれません。むしろ、対する意見について「なぜそれが間違っているか」あるいは「なぜその意見より自分の意見のほうが説得力があるのか」を示していく必要があるのです。こうしたときのことを考えても広く様々な意見に当たることが重要です。

 さて、これがいわゆる「争点」というものです。この「争点」をいくつか積み重ねたものが「論文」となるわけです。たとえば、オンラインチャットの例を用いるなら、

「オンラインチャットは引きこもりの子供に良いか悪いか」
「オンラインチャットは子供の生活時間に良く作用するか否か」
「オンラインチャットで社会にもたらされた変化は何があり、それは子供に好影響悪影響どちらをもたらしたか」

これらが争点となるわけです。これらすべてをもとに「オンラインコミュニケーションは子供に良い/悪い」と帰着させるのが論文です。

自分の解釈に通ずる道を探す

 ここまで来たらあと少し。自分の意見の正当性を主張するための方策について考えていきましょう。

 いわゆる「仮説」を立てる作業です。まずすべきなのは論文で示したい論理を明確化することです。

 子供とオンラインコミュニケーションの例を考えます。子供にとってオンラインでのコミュニケーションツールの存在が悪いものであると主張するためには、どのような論理を展開すれば良いでしょうか。たとえば、「引きこもりの子供にとって根本解決につながらない」「生活サイクルを壊す」「親世代がスマホに集中することで関係性が疎遠になり、悪循環を引き起こしている」みたいなことが言えれば自分の主張を通せそうだとわかりますね。

 これが論理の明確化です。あとはこれらの意見の正当性を主張するための材料を探す作業が続くことになります。自分の意見に反する文献も集めることを忘れないことも重要です。

最後に

 最後に「絞ることを忘れてはならない」ことを強調しておきます。論文に使える時間は当然ですが有限です。限られた許された時間の中で研究しきれる題材を選ばなくてはなりません。そのためには、「範囲」「時間軸」「対象」なんかを絞ることが重要です。上の例なら「引きこもりの子供にとってオンラインのコミュニケーションが良いか」などというような塩梅です。

 また、「比較」を主軸に展開する方法もあります。統一した二つの対立する事柄を用いて、様々な観点から二つの事柄を比較していく方法です。論全体で整合性が乱れづらくなります。

 とにかく、テーマ決めの段階では「興味分野」を探し明らかにすることが何よりも重要です。自分の興味があることにとことん向き合ってみてはいかがでしょうか。

貫通錯誤
カードゲームとボードゲーム(ゴールデンエッグラー,mtg,シャドバ,Blade Rondo,自作など)を嗜んでいます。カードゲーム、音楽、動画についてなどと、根強いファンを誇りたいショートエッセーの現代錯誤という連載を書いていきます。
noteでも(ほぼ同じ内容を)公開しています。⇒https://note.com/sakugo_suzuko

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