美しい日本語を探求する『日本語文章の作法』は毎週金曜日にお送りします。第二回の今回は文の硬軟と常套句についてマスターしていきましょう。では、早速ですが本編へどうぞ。
文の与える印象を制する。
文には筆者の個性が出ます。そして、文の個性は文の与える印象に直結します。意外な話に思われるかもしれませんが、多くの場合、文には筆者の人生経験が大きく反映されています。文の個性は良い文章の書き手になるために欠かせない、魅力となりえる部分です。しかし、文の個性だけが突出すればよいかといえば、そうではありません。実際問題、社会で生きる私たちが文章を書く機会というのは案外限られています。さらに言えば、私たちが文章を書く場合、そのほとんどが無機質な伝達を目的としています。事業についての解説・宣伝、あるいは何らかの報告書……。長文を書くことが求められる時、筆者の個性が求められるのは本当に限られた場合のみです。そうは言っても、文の個性は抑えようと思って抑えきれるものではありません。そこで、自分の文章の個性を見直して、それが与える印象を操作することが必要になります。
トビログのライターの文章を拝借して、どんな印象を受けるか分析してみましょう。
かりふぉるにあ
今回化学の世界地図の全てをご紹介出来た訳ではありませんが、是非紹介していない部分も掲載したYouTubeなどで見ていただきたいです。
https://tobilog.net/595/
特徴的なのは「化学の世界地図」というワードですがこれは引用による表現なので例外とします。しいてこの文章の特徴を挙げるなら、一文が長めである点でしょうか。以下のようにしてもいいはずです。
今回、化学の世界地図の全てをご紹介できたわけではありません。ですので是非、今回紹介できなかった部分も、記事内に掲載したYouTube等でみていただきたく思います。
文が長いことはより、口語に近い印象をもたらしているように感じます。上と下を見比べてください。下のほうが硬い印象を受けませんか?(これは僕の文章が硬いのも影響しています。確実に。)文章の硬軟の印象は「口語的か文語的か」に大きな影響を受けると言えます。
ジロー
サバイバー4人対キラー1人の非対称型の対戦ゲームです。サバイバーは閉じ込められたマップの中で発電機を5つ修理して脱出を目指し、キラーはそれを追いかけ虐殺していくといった内容です。
https://tobilog.net/881/
この文章の大きな特徴は主語が省略されていることです。章の冒頭部分から引用したのですが、最初の文から主語がありません。タイトルで主語が示されているからだと予想できます。筆者の考えたことをそのまま素直に文章にしている雰囲気を感じ取れます。
わいん
美しい風景描写のような入りから、一気に壮大なサビが入るんですが、そこでその曲調とは相容れない「億劫」という単語が使われています。一瞬どういうことなんだろうと思いましたが、すぐに分かりました。
https://tobilog.net/513/
わいんの文章が最も特徴的な気がします。特徴的ではあるんですが、言語化が難しいですねえ。同様の内容を僕が書いてみることで、その差異から違いを分析することとしましょう。
この曲は美しい風景を描写するかのような入りから、一気に壮大なサビへと展開されます。しかし、ここでこの壮大な雰囲気には合わない「億劫」という単語が使われています。これを初めて聞いたとき、「どういうことなんだろうか」と思いましたが、すぐにその答えがわかりました。
うーん。僕の文章のほうが「説明」が多いですね。わいんの文章は必要な情報に直結していて、表現が簡素で読みやすい印象を受けます。説明が少ないということは、裏を返せば読者に真意が伝わらない可能性を含んでいるとも言えます。しかし、ここはわいんの文章力がカバーしています。
あまりにも言語化が難しかったので、本人に聞いてみました。
自分が読みづらいの嫌いだから極限まで一般化されてる単語かつ読んでて面白く思ってもらうためにスラングに近い表現も使ってる
わいん
意外と近いこと言ってますね。当人も意識下かどうかはさておき、文章の簡潔さ、簡素さに重きを置いているようです。僕の文章を重いとすると、わいんの文章は明らかに軽いと言えます。
かもにく
Instagramのポスト風、ストーリー風、Twitterのツイート風の画面が流れるように表示されたのちに、若干お勉強っぽいコンテンツが表示されるという構成になっているのですが、お勉強っぽいコンテンツの画面の押しつけがましさが皆無。
https://tobilog.net/84/
これまたライトな印象。「お勉強」というワードチョイスがいいですね。とは言え、文の構造は意外と複雑で、かりふぉるにあのように長めにもなっています。トビログを思考のアウトプット場所と考えれば、当然な結果でもあるわけですが、思ってることをそのまま文章にした結果なのかもしれません。長文は人によってはわかりづらい印象を与えますが、逆に文章を細切れにするよりも大人びた印象をもたらします。
統括
うーん。意外と難しい。けれど、なんとなく筆者の個性が出ているのを感じ取れます。あくまで、「なんとなく」の話です。
基本的に柔らかめな文体が多い印象に思います。僕が硬いだけではあるのですが。(こういうところもそうです。柔らかい人は「僕が硬いだけなんですが。」と口語的な表現を使います。)
こうしたディティール以外にももう一つ、文の印象を左右する要素があります。むしろ、こちらの方がより大きな影響を与えます。それは何か。常套句の活用です。文章に柔らかさを加える常套句については次章で。
常套句を制する。
常套句とは何か、簡潔に言えば「先人たちの築いてきた表現の賜物」です。こうした表現は確固たるイメージを読者に与えます。つまり、常套句の活用はひと目見ただけでわかりやすい文を形成し得ます。具体例を見ていきましょう。以下の文を比較してみてください。(引用はしていませんが、便利なのでこのボックスを使います。
・薬物使用によって逮捕された俳優は、以後、俳優としての活動ができなくなった。
・薬物使用によって逮捕された俳優は、以後、表舞台に立つことがなかった。
如何でしょう。下の文の方がスッキリとした印象を持ちます。なんていうか、オシャレ。こうした表現は使うだけで文が引き締まり、短い語群でありながら、かなり意味を限定できます。
しかし、魅力たっぷりな常套句にも弱点があります。文章が平凡と評されがちな点です。先人たちが使い古してきた表現なわけですから、当然そこに特異性はありません。それはすなわちその文章が平凡であることを示してしまいます。ではどうするべきか、「引用」してしまえばいいのです。具体例を見ていきましょう。
月並みな表現だが、その時の私の気持ちは、まさしく名状しがたいものであった。
セコいと言えばそうなのかもしれませんが、立派な表現です。これで無用な批判すらも避けられます。(そうはいっても、この表現を多用ばかりするのもよろしくないのですが。)
『日本語文章の作法』第二回はここまで。最後に今回の「制覇鍛錬」を掲載します。ではまた次の金曜日にお会いしましょう。次回は「短文を制する。」
制覇鍛錬〜練習問題〜
問.以下の文章を「常套句」を使った形に書き換えなさい。
我々のチームはライバルであるXチームに、長年負け続けたことでを忸怩たる思いをし続けていた。しかし、今回の試合で大勝利を収めたことで、一部昇格を決めることができた。
【解答①】常套句を用いた方法
【解答】
もしよろしければコメントであなたの回答をお送り下さい。次回の連載に掲載する可能性があります。(コメントをいただいた時点で、掲載許可をいただいたものとします。)
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