時々錯誤 10/17 Code-G

ゴキブリを蹴っ飛ばした。それも三度。21:33の終バスにギリギリで駆け込んだ日のことである。朝の9:00から頭を働かせ続け12時間。帰り際に駅で友人を見つけた時には、当然頭など回っていなかった。他愛もない話をしながら乗り換え駅で降りると、目の前のカップルがいちゃついている。駅のホームでいきなり彼氏の腕に飛び込む様子を、少しばかりの憎たらしさを添えて観察していると、隣の友人も同じ動きをした。この駅は何かがおかしいらしい。しかしそれを機にすることもなく、私は歩みを止めずに足をまた一歩踏み出した——。 曰く、危うく踏み潰すところだったらしい。せっかく目に映したものも、曲解しては、足元の現実であったとして、ぼやけて見えてしまう。

初めてゴキブリと対面したのは、小学5年の秋、日吉の蕎麦屋にて。学生街にあって、しかし少し寂しげな雰囲気を醸し出していたのが気になり、入店した。当然客足はまばらだったが、蕎麦はうまい。食べ終えた頃に視界の隅を黒い塊が移動するのが見えた。会計を終えた瞬間、ふと店の方を振り返ると、”それ”は飛翔体に生まれ変わっていた。あの時はゴキブリが見えたからこそ、店が寂れている理由がわかったのだ。

中学の部活の夏合宿は、まさしくゴキブリとの三日間戦争であった。初めて見る「夜の学校」は「巣」でしかなかった。昼間、若さと熱気に溢れた学校という場は、夜、生気と殺気のいがみ合う場に変貌するのだ。ヤツを見つけては叩き、見つけては叩き、ある時は踏み……。「ゴキブリキラー」の異名を得た代償として、私は体育館履きを一足失った。

普段からゴキブリのことを考え続ける人間は稀である。なるべく見えないものとしておきたいはずだ。しかしゴキブリは、唐突に、しかし確実に目の前に現れる。時には卵を連れ、時には空から襲いかかってくるのだ。見たくもない「現実」と同じである。

しかし、襲いかかるゴキブリという名の「現実」が自分には見えていないこともある。見えないまま、蹴っ飛ばすこともある。それも三度も。「現実」に追い込まれた時には、それくらいの大雑把さが必要なものである。

貫通錯誤
カードゲームとボードゲーム(ゴールデンエッグラー,mtg,シャドバ,Blade Rondo,自作など)を嗜んでいます。カードゲーム、音楽、動画についてなどと、根強いファンを誇りたいショートエッセーの現代錯誤という連載を書いていきます。
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