時々錯誤 1/23 明け

チルい音楽に身を委ね、電車に揺られる優雅な帰路。しかしその実、締切という締切に追われている。年も明けてこの時期になると、ようやく毎日が帰ってくる。

二兎を追うものは一兎をも得ず、とはいうが、追われる側は案外空想に耽る余裕があったりする。だから私はこうして筆をとっている。それも今年初めてである。

年末年始が特別忙しかったかというとそうではなく、例によって惰眠を貪り生命力という生命力を布団の中に詰め込むだけの日々を送っていた。省みもせず、前も向かず。どこを見ても景色が変わらない森の中にいるかのような、ただただ「もっさり」とした年の瀬。休息もなければ疲労もない。側から見れば少しずつ廃れているようだが、実際のところは本人にもわからない。

5分前に始発駅を発ったこの各駅停車は、少しだけ色づいた空気と共に、私をゆっくり運び続けている。買ったばかりの小さなイヤホンは、私の拍動に等しいリズムを刻み続けている。

私は、年の区切りから三週間経った今になって、やっと年を越したのかもしれない。焦燥の積み重なりが成す影が、自分の大きさを超える。迫る影に起床を迫られるのは、夕日が差す頃合いである。

そうこう考えているうちにチルい音楽は終わり、プレイリストも終盤に差し掛かる。音の重なりは壮大さを増し、最高潮も近づく。私は音量を1だけ上げる。ラスサビに入る頃になれば、ずっと各駅停車だったこの電車も、ここから先はほとんどの駅を通過しだす。

電車の加速に比例して、私の筆も進む。次の駅に停まる頃には筆を収めているだろう。現実と空想のちょうど真ん中で、正夢と妄想の間を行ったり来たりするこの文章に終止符を打つ。そして私は、見ないふりをしていた締め切りの数々をリストアップするところから、また今日を始め直すのである。

貫通錯誤
カードゲームとボードゲーム(ゴールデンエッグラー,mtg,シャドバ,Blade Rondo,自作など)を嗜んでいます。カードゲーム、音楽、動画についてなどと、根強いファンを誇りたいショートエッセーの現代錯誤という連載を書いていきます。
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